静岡地方裁判所 昭和28年(行)5号 判決
原告 内山隆 外二〇四名
被告 静岡市選挙管理委員会委員長
一、主 文
静岡市選挙管理委員会が昭和二十八年十二月九日原告らの異議申立を却下した決定はいずれもこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、静岡市選挙管理委員会は、昭和二十八年十月三十一日、静岡市選挙人名簿を調製し、同年十一月五日から同月十九日までこれを縦覧に供したが、有資格者である原告らの氏名が登載せられていなかつたので、原告らは同月十九日右につき、右委員会に対し異議を申立てたところ、原告らの住所が静岡市にあるものとは認め難いとの理由を以て、同年十二月九日却下の決定がなされその通知は、同月十二日各原告に到達した。
しかしながら、原告らは、いずれも、日本国民で昭和二十八年十二月二十日現在において満二十年以上であり、静岡大学の学生で別表記載の学部に属し、同表記載の日から同表記載の地に居住して同大学に通学し、同日より静岡市に住所を有する者であり、又いわゆる欠格事由のない者である。従つて、原告らはいずれも法定の選挙資格を有するもので、当然選挙人名簿に登載せらるべきものであるから、右脱漏に対する原告らの異議の申立を却下した処分は違法である。よつて、これが取消を求めると述べ、なお原告和田は、被告の主張中、学資の出所及び帰省の点は否認する。と附陳した(立証省略)。
被告訴訟代理人は、原告らの請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とする旨の判決を求め、その答弁として、原告らの主張は、住所の点を除きすべてこれを認める。住所に関する主張の中、原告らはいずれもその主張のように静岡大学の各学部に入学したことは認めるが、原告和田を除くその余の原告に対しては、その余の事実は否認し、右和田に対しては、その主張のように居住することは認めるが、学資の仕送りを受け、休暇等には帰省するので静岡市に住所を有しないものである。要するに、原告らは、いずれも静岡市に住所を有するものと認め難いから、選挙人名簿に原告らの氏名が登載されなかつたのは当然であり、従つてこれが脱漏修正を目的とする異議申立を却下した処分には、何ら違法のかどはないと述べた(立証省略)。
三、理 由
静岡市選挙管理委員会が、本件異議却下決定をなし、それが原告らに通知せられるまでの原告主張の経過事実及び原告らが日本国民で本件基本選挙人名簿確定の期日に満二十年以上の者であり、いわゆる欠格事由のない者であることは当事者間に争がなく、しかして右異議却下決定の理由が原告らの住所が静岡市にあるものとは認められないというにあつたことは被告の自ら主張するところである。
ところで公職選挙法第九条第二項及び第二十条第一項は、「三ケ月以来」その「市町村の区域内に住所を有する」ことを要件として規定しているが、ここにいわゆる住所の意義については同法並びにその附属法令等に何らこれを明らかにしたものがないから、結局民法「住所」の用語例に従つたものと理解するのほかなく、民法第二十一条には各人の生活の本拠を以てその住所とする旨規定せられているので、右選挙法にいわゆる住所も亦各選挙人の生活の本拠を指称するものといわなければならない。然し乍らここに生活の本拠と称するも、現今各人の法律生活は多岐に亘り、その法律関係の異なるに従い、その生存及び活動の中心と目すべき地点にも異動を生じ、到底一個所に限定し難いもののあることは、極めて明かなところであるから、いま各人の生活の本拠の何たるかを判定するに当つては、すべからくその具体的法律関係に即し、且つ当該法律関係を支配する法規の企図する法律効果、その達せんとする目的の如何を考えてこれを決すべきものと解するを相当とする。しかして右公職選挙法第九条第二項が住所を以てその属する地方公共団体の議会の議員及び長並びにその教育委員会の委員の選挙権の要件としたのは、主として地方政治に対する住民の地縁的関係を重視したことによるものであり、又同法第二十条第一項が住所を以て基本選挙人名簿登録の要件としたのは、主として名簿作成の技術的要請に基くものと解せられ、それぞれ住所を要件として規定したる理由を異にするけれども、一方同法第十九条の規定により明らかである通り、国会議員及び地方議会議員その他の各選挙を通じて一の基本選挙人名簿が作成せられるだけであること、しかも国会議員の選挙権については住所を要件としないこと(同法第九条第一項)から考えると、公職選挙法は、一面、選挙権の行使をして適正ならしめんことを期しつつ、他面有権者をして現に居住する市町村において投票せしめることによつて、選挙権の行使を容易ならしめんとする企図の下に、右両者に共通する住所の規定を設けたものと解するを妥当とするから、特定の選挙人の生活の本拠を定むるについては、当該本人がその市町村に継続して居住し、その住居を中心として日常生活が営まれているや否やの客観的事実を標準として判断すべきものといわれなければならない。
よつて叙上の見地に立つて、果して原告らの住所が静岡市に存するや否やにつき考察するに、原告らがいずれもその主張のように静岡大学の各学部に入学したことは当事者間に争がなく、しかして原告本人赤堀寛治、増田和人、塩川竜之、土屋智恵子各尋問の結果及び成立に争のない甲第一号証の一ないし三、第二号証、第三号証の一、二、第四号証の二ないし四、五の二、六ないし十三、十五、十六、十七の一、十八ないし二十一、二十二の一、二十三、二十四、第六号証、第七号証の一の一ないし四、二の一ないし四、三、第八号証の一の一、二、二の一、二、同号証の三、第九号証の一、二、第十号証の一の一ないし三、二、第十一号証の一ないし四、乙第九号証の五、九、十二、二十八、三十九、百十七、百二十三、百六十二、乙第十号証の五、九、十二、百十二、百五十六、原告本人増田和人の尋問の結果により成立を認められる甲第一号証の四、五を綜合すれば、和田を除くその余の原告らは、いずれも別表認定欄記載の日から、それぞれ静岡市内の同表記載の住居より静岡大学に通学し、目下二年ないし四年の修学課程を履修しつつある静岡大学の学生であつて、学則によつて、休業日は国民の祝日、日曜日、創立記念日六月一日、春季休業三月二十一日から四月十日まで、夏季休業七月二十一日から八月三十一日まで、秋季休業十月一日から十月七日まで、冬季休業十二月二十日から翌年一月十日までと定められているが、郷里に遠く或いは交通上通学に不便等の理由により入寮又は下宿しているので、右休業日の中、四回の長期休暇の他は殆んど帰省せず、勿論主食の配給は右住居において受給し、事実上年間を通じ大部分を同所において起臥飲食し、居住開始後一年に満たない者も同様の予定で同様の日常生活を営み、同所から通学していることが認められる。右証拠中この認定に反する部分は措信せず、又、他にこれを覆えすに足る証拠はない。
原告和田については、その主張の日から、その主張のように通学することは当事者間に争がなく、前記証拠により、他の原告と同様の居住関係が認められる。
そうすると、右の他特段の事情の認められない本件においては原告らはいずれも前記認定の日から右住居を中心として学生生活を営み、且つ修学のため継続して同所に居住しているものと認められるので、前記の理由により選挙法上原告らの生活の本拠は静岡市にあり、従つて原告らは昭和二十八年九月十五日現在において三ケ月以来静岡市に住所を有するものに該当するものと認むるを相当とする。
なお、被告は原告和田について、同人が学資の仕送りを受けているので、静岡市に住所を有しないと主張するが、たとえ、かかる事実があつたとしても、それのみをもつては、前記住所の意味に照らし、静岡市に住所を有しないとするには至らない。
このように、原告らはいずれも静岡市に住所を有するものであり、且つその他の選挙資格につき欠くるところのないことは、前記認定の通りであるから、当然基本選挙人名簿に登載せらるべかりしものと言うべく、従つてその脱漏修正を目的とする原告らの異議申立を却下した本件却下決定はいずれも違法であり、原告らの請求は理由があるのでこれを認容し、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 戸塚敬造 田嶋重徳 土肥原光圀)
(別紙省略)